私と心の影 ――メガCD版『オルゴール』論 このゲームのことを考えたり、実際にプレイすると、どうしても1993年にトリップしてしまいます。私が初めてこのゲームに触れたころ、小学6年生のころです。 どういうゲームなのかは、専門のファンサイトか何かを参照していただければと思います。ここよりもよほど詳しく書いているので。 このゲームに関しては、どうしても私情抜きで話すことができません。 1993年から、2013年。20年来ずっと心のどこかにかかっていた、暗い影。一言で表せば、そういうことなのです。私の人格形成に少なくない影響を与えたソフト。それがこの『オルゴール』なのです。 (そういうわけで、ネタバレとかを注意せず書きたいように書いています) 「暑い夏だった。亡者さえも地獄の底から甦りそうな、暑い夏だった」何せ自分で謎を解いていくジャンルのゲームだけに、どうストーリィ紹介をしたらいいのか悩んだ挙句、丸ごと引用してしまいました。つまりこういうところから物語がスタートするのですが、そこで降矢木を待ち受けていたのは、次々と起こる凄惨な殺人事件でした。 凄惨な、と言いましたが、これは本当に凄惨です。ただ絞殺されたとか刺殺されたとかではなく、身体の一部分が欠損した状態で死んでいるのです。ある者は両目をえぐられ、ある者は鼻をそがれ、またある者は……。そんな感じの惨殺死体が次々と出てきます。 今風に言えばグロいとか、そういう言葉になるんでしょうが、特段グロテスクな印象は受けませんでした。ただ、そこに死体がある。それだけでした。そのままスッと心の奥深いところに沈んでいったのです。 むしろ怖いのはそういった死体ではなく、その世界そのものでした。 次々とパーティの招待者が殺されていくのも、確かに怖いです。でも、それよりも怖いのが、後半パートでアナリスト(人の心にダイブする特殊能力を持つ探偵)降矢木が踏み込む、ある人物の心象風景でした。 その人物の心の奥にしまいこまれた大切なもの。その正体が何であるかを降矢木がズバリ看破すると、急速にその人の心の世界が崩壊し始めるのです。目の前にある『大切なもの』の正体が明らかになり、一気に壊れていく美しい幻想。あまりにも急激で不可解な展開に、まだ小学生だった犬神は激しい衝撃を受けました。 「なんだ、これは?」 「どうして、こんなことに?」 この年齢(30代)ならそうやって理性が歯止めをかけようとするのでしょうが、当時の私はそこまで聡明ではありませんでした。ただ怖く、ただ不思議。ストンと丸ごと心の中に入ってくるものの、それをどうしていいのかわからない。 それで、ずっとこのゲームのことを遠ざけて生きてきました。もう関わらないようにしようと思ったのです。 で、それから20年が経った2013年は、どうも「昔から気になっていたけど、手をつけていなかったもの」に手を出して攻略していく年のようだったので、本作も久々に正面から取り組んでみました。 アドベンチャーゲームとしては、結構難しいな、というのが私の印象です。まあ今時のゲームが随分と親切すぎるだけなのかもしれませんが、「次に、何を調べればいいのか?」というのがわからず、30分とか1時間とかウロウロと歩き回りながら悩むような場面も多々ありました。結局コマンド総当りに近い状態で、「あれ? ここを調べればよかったの?」と思いながら進める……と、そんな感じでのプレイでした。 もっとも、ある程度そうやって手探りで進めていくと、プレイヤーが何もしなくても物語がどんどん進んでいくようになりました。このあたりはゲームをしているというよりも映画を見ているような感覚ですね。それだけに、『今、目の前でどういうことが起こっているのか?』というのを一所懸命に考えながら、最後まで物語を追いかけることができました。 そしてプレイ後は、ゲーム本編のムービーパートをつなぎ合わせた『DAPSリプレイ』で回想。改めて、この物語はどういうものだったのか? を整理しました。 20年ぶりに時間が動き出したのです。 思えば私が『人の心』に興味を持つようになったのは、このゲームがきっかけのような気がします。 人の心の中は不思議で面白い。わからないことがたくさんあるから、それを少しでもわかりたい。そんな風に思うようになったきっかけが、このゲームだったんじゃないかな。 それはある意味では、元々内向的だった性格をよりいっそう内向的にするきっかけだったように思いますが、そのあたりは社会人になって少しは修正されたのでね。心のメカニズムに関する知識と関心だけが残りました。結果的には、よかったかなと思います。 なんだかよくわからない話に終始してしまいましたが、とにかくこのゲームはすごく不思議で面白いものです。そして不思議なところが解けると、胸いっぱいに感動が広がります。語っても語りつくせないのですが、とりあえず今回はこんなところにしておきます。 |