私と実車感覚レースゲーム
『バーチャレーシング』論
(+『バーチャレーシングデラックス』論)


 1992年にアーケードで発売された本作は、私にとっては初めての『本気でちゃんと遊べた』ポリゴン・レースゲームでした。

 あえてこんな言い方をするのは、それ以前にも『ハードドライビン』とか『ウイニングラン』とかがあったけれど、当時はまだ小学校低学年で、 あんまり楽しめなかったから。ゲームが悪いんじゃなくて、単純に出会うのが早かったんです。

 そんな私も高学年になった92年のある日、デパートのゲームコーナーに本物のフォーミュラカーを模した筐体がドーン! と鎮座していました。 折りしも当時はF1ブーム。なんじゃこりゃ!? とばかりにプレイしてみました。そうしたところ、やたら重いハンドル、変なところについているシフトレバー、 ブシューブシューと作動する座席横のエアバッグ。何から何まで新鮮な驚きに満ち満ちたゲームでした。

 その2年後、カセットに特殊なチップを搭載することでメガドライブに移植された本作。板をはり合わせて作ったような、いかにもポリゴン! といった 感じの見た目も気にせず、メチャクチャやりこみました。

 そして2011年の暮れ。いまだもって現役稼動中のメガドライブ(2代目)でプレイしたところ、当時は見えなかったあれこれに気づき、このテキストを書き始めた 次第です。
 

 リアル・レースゲーム


 何をもってリアルとするのか、というと難しいところですが、それまでのレースゲームと比べれば本作は格段にリアルである……というのは間違いないですよね。

 それまでのレースゲームは、オーバースピードでカーブを曲がろうとすると、キャキャキャキャとスキール音をさせ、砂煙を上げながら真横にズリズリとスライド していき……看板か何かにぶつかってスピン(もしくは爆発など)する、という感じだったわけですが、これはそうじゃないんですよね。壁とか看板にぶつからなくても、 遠心力に後輪が負けてしまったら、クルッと一回転しちゃう。至極まっとうな動きです。

 だから、カーブの内側をベタッとなめるように走るよりも、いわゆる『アウト・イン・アウト』の大原則を守って走った方が速い。いたって実直なテクニックが 求められるゲームなのです。

 もちろん、ゲームパッドで遊ぶためのソフトですからね。実車の動きに比べたらずっとゲーム的な挙動なのでしょうが、中学1年生(当時)のジャリっ子には十分に リアルな動きだったのです。


 シンプルすぎくらいがちょうどいい


 車種はフォーミュラカー1台だけ、コースは3コースのみ、選択できるのもアーケードモードとタイムアタックモードくらい(あとは2人対戦モード)。

 ゲーム中に流れる音楽も少ないです。チェックポイントを通過した時と、ピットイン・アウトの時くらいで、あとは結果表示とリプレイの時くらいに流れるだけ。 プレイ中の大半は、エンジン音のみが響き渡る状態となります。

 さらに言えばタイヤは丸くないし、ピット作業にあたる人は紙のように薄いし、テクスチャもないので、一言で言えばひっじょーにシンプルです。何十台もの車が出て、 コースもいっぱいあって、クリアするのに100時間も150時間もかかるような今日のレースゲームと比べれば、人によっては朝買って夕方には同じショップに 持っていくかもしれないくらい、やれることは少ないです。

 ただ、私にとっては、それがいいんです。

 まず1着になるのが意外と難しいんですよね。3位とか2位のライバルまでは、よほど大きなミスをしなければ何とかパスできるんですが、1位を走っているやつは意外と 速くて、結局抜ききれないまま2着で終わってしまう、なんていうこともよくありました。

 じゃあ1着になるためにはどうしたらいいのかというと、先ほども申し上げたようにセオリーに乗っ取った実直なドライブをしなければならないのです。そうすることで タイムアップにもつながるし、そうすれば結果として順位も上がる。やればやっただけ上手になれる、そんなゲームなのです。


 16ビット時代最高のレースゲーム


 といったことを、発売から15年以上が経過した2011年、改めてプレイして感じました。

 元々車が大好きだった私、このあとも色々なレースゲームをやりました。大学の頃にプレイしていた『グランツーリスモ3』なんかは、やりこみすぎて思いっきり 単位を落としてしまいあわや留年かというところまで追い込まれました。一番新しいところでは『ニードフォースピード:ホットパースート』とかでしょうか。

 ただ、私の頭がハードの進化に追いつけなくなってきたのも、現実問題としてあります。上手になれないまま時間ばかりが過ぎて、結局中途半端なところで投げ 出してしまう。そんな悲しいことになってしまうゲームが、チラホラ出てきたのです。

 最近ファミコン〜メガドライブのゲームばかりやっているのも、そういったことの反動でしょう。シンプルで、それほど知識がなくてもパッと飛びつける。そのあとも、 ちゃんと自分でコントロールできる。ゲームの骨格をちゃんと理解して、その上で自分なりの楽しみ方を加味し、二度三度四度五度と楽しめる。

 本作はまさにそういった気質の人向けのゲームです。シンプルだけど奥深い。プレイするたびに微妙に内容(ラップタイム)が変わるから、いったんゴールしても、 つい「もう1回!」となってしまう。だから私は『バーチャレーシング』が大好きです。



ちょうどいい、より、もっといい!
――32X版『バーチャレーシング・デラックス』について



 本作は後に『バーチャレーシング・デラックス』としてスーパー32Xで発売されます。デラックスの名にふさわしく、コースが二つ追加され、さらに操作できる車も ツーリングカーとスポーツカー……いわゆる『箱車』と『プロトタイプ』が増えました。元々フォーミュラカーよりもツーリングカーが好きで、ツーリングカーよりも スポーツカーが好きな犬神には、これは願ってもない追加要素でした。

 ツーリングカーの方は最高速が280キロ程度に抑えられているものの(フォーミュラは320キロくらい出る)、コーナリング性能がとんでもないことになっていて、 初級コースならほとんど減速しないで曲がりきることが出来ます。ここまでやっても大丈夫なの? と言いたくなるくらい、車を横向きにさせながらズリズリと 曲がっていく様は、『リッジレーサー』にも通じるようなところがあります。

 一方のスポーツカーは、そもそもユノディエール(6キロくらいある直線)を突っ走るために設計されたマシンなので最高速が高く、380キロ以上ものスピードが出ます。 そのためツーリングカーとは反対に、ほぼすべてのコーナーで減速を余儀なくされます。さらにいえば最高速重視=加速がよくないので、立ち上がり重視のラインを 攻めていかなければなりません。

 そういうこともあって、雑誌の記事やプレイヤーのレビューでは、あまりいい評価が得られていませんが、その最高速を引き出せばフォーミュラカーよりも2秒以上 速く走ることが出来ます。チェックポイントの音楽が終わりきる前に次のチェックポイントに到着してしまう、なんていうこともよくあります。ものすごく高性能な マシンなのです。

 こういった新車、新コースを走れるだけでも十分デラックスなのですが、さすが32ビット機だけあって、ゲームそれ自体の流れもすごくスムーズになっています。 でもって音楽もちょっぴりパワーアップしていて、特にリプレイ時の音楽なんかは『セガコン』に収録されるくらいの名曲です。後発のサターン版やPS2版がちょっと 違うゲームになってしまったので、もしかするとアーケード版を飛び越えて、これが一等いい作品かもしれません。
 

 




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