私と「ミカ」と「クリスマス」
――『スナッチャー』論(サターン版準拠)


 
 本来この『スナッチャー』というゲームはPC88で発売されたゲームなんですね。……ただ、私が初めてこのゲームの写真を見たのは、確かMSX版だったと思うのです。そこで主人公のギリアン・シードが『ブラスター』を初めて受け取り、チャキッ! と構えてみせるシーンだったと思うのです。
 
 次に見たのはPCエンジン版。これは確か『ファミコン通信』の新作紹介ページだったと思うのですが、そこでもいくつかの写真がありました。いくつか例を挙げると、こんなところです。
 
 
 受付/オペレーター担当『ミカ・スレイトン』の画像
 
 メタルギアmk−IIの画像
 
 「ギブスン? ギブスンじゃないか……首がねじ切られている」の画像


 ただ、当時の私はMSXもPCエンジンも高嶺の花。はるかな未来のはずなのに、どこか20世紀な雰囲気もある……要するに『ブレードランナー』な世界観にあこがれつつも、自分でプレイする機会もないまま時間が経ちました。
 
 しかしながら、そんな私もプレイすることができる日が来ました。当時『次世代機』と呼ばれたセガサターンで発売されたのです。
 
 そういうわけで、私にとって『スナッチャー』と言えばセガサターン版のことをいいます。製作者サイドとしては「かってに改変されたのでプレイして欲しくない」という意向をお持ちだそうですが、それでも私はこれがいいんです。というかこれしか知らないし、これしかできないから、これでいいんです。
 
 
 サイバーパンクシティ NEO KOBE
 
 
 j時代は2042年、舞台は神戸港を埋め立てて作られた新興都市『ネオ・コウベ』。そこで人間に成りすまして暗躍する殺人アンドロイド『スナッチャー』を取り締まり、排除するために活動する特殊部隊『JUNKER』に配属された主人公ギリアン・シードが相棒メタルギアMK−IIともども活躍する……というのが、とりあえずのあらすじです。
 
 表向きには高度情報化社会となっているネオ・コウベの街。人々のプロフィールのすべてがコンピュータで管理され、専用端末にアクセスすれば住所氏名がすぐに出てくるんですが……外国からの移民が大量に入り込んでいて、管理しきれない部分もあります。そういった人たちが住む街は治安が悪い代わりに何でも手にはいる闇市(という割には表通りに堂々と広告を打ち出している)があったり、当時としてはご法度の鯨料理を食べさせるパブがあったり……と、異様な活気に満ち溢れています。
 
 なお、その情報管理はコナミ株式会社が担っているほか、先ほど書いた闇市『ジョイ・ディヴィジョン』のロゴはコナミマークをアレンジしたものになり(ギリアンいわく「経営が同じなんじゃないのか?」)、作中での重要ポイント『アウターヘブン』にいるコスプレキャラはドラキュラ、シモン、パワプロ君、ゴエモン、パステルなどのコナミキャラになっています。
 
 なお、ギリアンの相棒であるメタルギアMK−IIは……言うまでもなくTX−55メタルギアをイメージして作られたものです。製作者のハリー『おやっさん』ベンソンが「前世紀末に世界を恐怖に陥れた……」と語っていることから、あのメタルギアでしょう。
 
 またJUNKER局長のベンソン・カニンガムは「元FOXHOUND戦略教官」という経歴を持っています。さらに終盤に出てくる重要人物の名前が、『メタルギア』でも非常に重要な役割を果たすアノ人物と同じ名前なんですが……ま、これは同姓同名の別な人でしょう。
 
 残念ながらFOXHOUNDの詳細は本部内にあるコンピュータ『ガウディ』でも調べることができませんが、もしかしたら人名検索で「あの男」の名前を入れると何か情報が出てくるかもしれません……?
 

冗談か本気かわかんないギリギリのところで(後略)

 
 そんなサイバーでハードコアパンクな世界ではあるんですが、物語を親しみやすくしているのが全体に漂う冗談めかしたやりとりですね。
 
 JUNKERの捜査員には「その捜査員の性格に合わせた」パートナーとして支給されるのですが、これがまた……何かにつけて一言多いんですよね。コンピュータだけに冗談なのか本気なのかわからない口調でいちいち余計な一言を発し、ギリアンに突っ込まれる。そのやり取りが面白いので、気持ちが参ってしまうことなくゲームを進められます。
 
 声が小山『アラレ』茉美さんって言うのもいいですね(モモでも可)。これは製作者の意図もあったようですが、鉄のにおいか血のにおいしかしないようなハードな世界観をフッと和ませる。そんな効果を十二分に発揮しております。ちなみに主人公ギリアンの声を当てている屋良有作さんは……ああ、第2期のセンベエさんの声を当てていたんですね。どうやらニアミスだったようです(?)。
 
 また道中で女性キャラが出ると、必ずプレイボーイめいた選択肢が出ます(『胸を見る』『口説く』『デートに誘う』など)。それだけならまだいいんですが、本作では『見せる→男の証明』とか『何かする→慰みものにする』などのキワドイ選択肢が出てきます。しかもこの時の相手の女の子は14歳ですからね。……いくら冗談でも、そんな選択肢は選べませんよ。
 
 あとは道中で名物の『ネオ・コウベ焼き』を食べたり、パブで鯨料理(ご禁制の食べ物)を食べたり、捜査中にもかかわらずお酒を飲んだり。……そういう「しなくてもいい」アクションがたくさんあり、そのたびにギリアンとメタルが色々な掛け合いをするところがたくさんあるのですね。よく言えば気が利く、悪く言えば一言多い性格なので、そこをギリアンに突っ込まれる、と。まあ、そのおかげで何度もピンチを切り抜けたので、最高のコンビであることは確実ですが。
 
 
 クリスマス、だってクリスマスだから
 
 
 そんなこんなで硬軟織り交ぜつつゲームは進展していくのですが、私が特にこのゲームを気に入っている理由のひとつは、このゲームがクリスマス直前のにぎやかな雰囲気を出していることです。
 
 2042年という未来設定ですが、時期は12月。ネオ・コウベ随一の繁華街である『アルタミラ前』では多くのカップルが待ち合わせやら何やらでごった返し、アルタビジョンのような大型看板ではひっきりなしに広告がきらめき、そこで流れるBGMも『ジングルベル』をちょっとアレンジしたようなもので……まあ、2013年現在の日本とあまり変わらないようです。。
 
 「俺はこのクリスマスの雰囲気が好きなんだ。温かい感じがして……」
 
 劇中でギリアンがそんなことを言っていました。うろ覚えなので詳細は違うかもしれませんが、前半部分の「この雰囲気が好き」と言っていたのは確実です。奥さんがいることはいるものの別居中のギリアンが言うと何となくさびしい雰囲気もしますが、それがまた格好いいじゃないですか。私は完全に独り身なんですが、このギリアンの言葉を聞いて以来、自分なりにクリスマスの雰囲気を楽しむようにしています。
 
 しかしながら、そんなクリスマスムードをぶち壊すようなスナッチャー関連の事件。最初は5人いたJUNKERも次々と殉職し(その中には『デッカード』という名前の人もいた模様)、ギリアンが文字通り孤軍奮闘し、ようやくネオ・コウベにおけるスナッチャーのアジトを突き止めたものの、一方で政治家たちがある決断を下そうとしていました。この手の映画でよくある解決策です。
 
 それでも最後のチャンスにかけて立ち上がったギリアンに対してミカがかけた言葉が……。
 
 …………
 
 ここが、このゲームでもっとも涙を誘った場面でした。まだエンディングには早いんですが、ここが一番、私が感動した場面でした。
 
 元々「ミカ」という名前の女性に特別な思い入れがある犬神個人の事情も大いにあるんですが(非常に恥ずかしい話なので特定秘密指定)、本作における女性キャラの中ではミカ・スレイトンが一番好きだったんです。最初にJUNKERを案内してくれたミカ。胸のあたりをチラチラ見ていたら「あんまりしつこいと怒るわよ」と言ってきたミカ。そのあと色々と大変な目に遭いつつも何とか生き続けたミカ。
 
 原作者はジェミーが一番のお気に入りだといいますし、カトリーヌが最高! という人もいるでしょうし(ちょっと若すぎるので、大っぴらにそう言いづらいところはありますが)、中にはダンサーやある人物の奥さんが好きっていう人もいるでしょう。本来的にはジェミーが好きだというのが自然な流れだと思いますが、とにかく私はミカが一番好きです。ジェミーには申し訳ありませんが、私はそうでした。
 
 
 
 そんなわけで終盤に来て「ミカ語り」がちょっと長くなってしまいましたが、私にとっては特別な一本です。なお、実は数年前に一度クリアしていたのですが、今回あることをきっかけに再プレイし、こうして一本記事を書き上げてしまいました。
 
 その理由というのは、PS2版『メタルギアソリッド3』のオマケについてきた、MSX版の「メタルギア2 ソリッドスネーク」をプレイしていた時のこと。主人公『ソリッド・スネーク』に対しサポート役の『キャンベル大佐』が傭兵上がりの情報屋『ジョージ・ケスラー』に関して言ったせりふでした。
 
 「……情報料はこちらもちだが、鯨料理の店のことなんか聞くなよ?」
 
 ……そういうわけで再びネオ・コウベの街に行き、別な情報屋に鯨料理の店のことを聞いたのでした……。

 
 
 
     

 


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