私と史上最もシビアなアーケードレースゲーム――
『セガツーリングカーチャンピオンシップ』論


 今年(2018年)、セガ様から『セガワールドドライバーズチャンピオンシップ』(SWDC)というゲームが出ました。

 実在の自動車レース『SUPER GT』をモデルに、それに参戦している実在のチームの一員になり、レースに参加するという代物なのですが、これがアーケードゲームにしては珍しくリアルな挙動なんですよね。同社の「頭文字D」とか『湾岸ミッドナイト』みたいな非現実的ドリフトシステムじゃなくて、ちゃんとブレーキを踏んで地面を踏みしめないと曲がらないという。

 といって、レーサーではない大多数の人が楽しめるように適度のデフォルメもされています。私は実際にGTカーを運転したことがないので、ゲームと同じ操作をすればどうなるのかわかりませんが、たぶん見えないところでアシストされているのでしょう。おかげで随分と楽しくプレイすることができます。

 適度にリアル、適度にゲーム。私は『SWDC』と、『バトルギア4Tuned』を全力支持します。

 ただ、それは90年代の――私が知る限り、アーケード史上最もシビアなレースゲーム『セガツーリングカーチャンピオンシップ』(STCC)があったからだと思います。しかも、それを30代になって――ゲームの腕も実車の運転技術もそれなりに経験を積んだ――今やり込んだからだと思います。なかなか気軽にプレイできる場所にはないし、それだっていつなくなるかわからないから。いずれ『SWDC』についても書きますが、その大前提として、これを書きたいと思います。
 

 1996年にセガから発売された本作は当時ドイツで開催されていた国際ツーリングカー選手権をモデルにしたゲームです。登場車種は以下の通りです(スープラは国際ツーリングカー選手権ではなく、全日本GT選手権仕様)。

 メルセデス・ベンツ Cクラス 

 オペル・カリブラ

 アルファロメオ・155 V6TI

トヨタ・スープラ

 このうちオペルとアルファロメオは、四輪駆動です。四輪駆動の車をわざわざ後輪駆動にする現代のレースシーンでは考えられませんが、この当時は速く走るためなら何でもかんでもやっていた時代なのです。空力デバイスも運転アシストも爆盛りメガ盛りです。そのせいでコストも青天井形式となり次々とメーカーが撤退、そしてシリーズ消滅というお決まりの流れになったのですが……。

 そんなハイテクデバイスてんこ盛りのレーシングカーですから、その動力性能も超ド級です。ものの1〜2秒で300キロ近いスピードに到達します。文字通り、息をのむような加速です。ターボに頼らない自然吸気エンジン(スープラはターボ付き)でパワーを稼ぎ出すため、エンジンは1分間に1万回転以上という超高速運動を繰り返します。キュイイイーーーーンという甲高いエンジン音はとても気持ちいいです。

 その代わりパワーバンド(車のパワーが最も出る回転数)が極端に狭く、ちょっとハンドルを切るだけですぐに30キロくらい速度が落ちます。そのため「いかにスピードを落とさずカーブを曲がるか」という技術が求められます。最近の、峠道とか高速道路とかを走るレースゲームみたいに派手な角度をつけたドリフト走行なんぞは厳禁です。アーケードゲームとしては非常に厳しい時間制限もあり、きわめてシビアで高度な運転技術が求められるのです。

 おかげで当時まだ十代のガキだった私には手に負えず、本格的にやり込んだのはそれから20年後――2017年に岩手県は八幡平市という地方都市のスーパーマーケット内のゲームコーナーで再会してからでした。

 相変わらずゲームの中のベストタイムには遠く及ばないのですが、一度だけ上級コースまで進むことができました。そして、ほんの一時期でありますが、1位を走ることができました。まあ中級コースを残りタイム0秒でクリア(強制停止中にゴールライン通過)して、そのうえで上級コースに進んだもので、半分以上ラッキーによるものなんですが、それでも何でも上級コースまで行ったのは事実ですから。非常に大きな達成感を得られたのと同時に、

 「ここまで来れたってことは、頑張ればちゃんと完走できるってことだな」

 ということですね。そういう手ごたえを感じました。もっとも、その後はなかなか中級コースさえクリアすることができず、何よりそこまで行くのが結構大変なので、今のところゲームの進捗状況について書けるのはここまでなんですが……。


 時代は2018年に戻ります。

 SWDCは、そんな超リアルで超々ハイレベルな「セガツーリングカーチャンピオンシップ」をグンと遊びやすくしたゲームであると私は思っています。

 アクセル操作さえ省きステアリング操作だけでレースが楽しめる「キッズレーサー」仕様から様々なアシストをオフにし限界性能を引き出せる「ベテランレーサー」仕様まで、まさに万人向けのゲームです。初心者はアシスト付きのモードで雰囲気に慣れ(私もそうでしたし)、慣れてきたらアシストをオフにし少しでも上を目指す、と。幅広く長く遊べる名作ゲームであると思います。

 しかしながら、私も「セガツーリングカーチャンピオンシップ」がなければ、ここまで熱くなることはできなかったかもしれません。「どうせゲームだし、バンとアクセル踏んでグイっとハンドル切ればいいでしょ」っていう半端な気分では初級コースさえ完走できない超難易度。実車の運転経験をも生かして、真剣に「レーシングカーを走らせる」ということを考えながらプレイした下積み。それがあればこそSWDC、結構頑張ってやれているのだと思います(それほど上手なわけではありませんが)。

 20年以上が経過してようやくわかった面白さ。やっぱりレースゲームって面白い。



 


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