私とイタリアン・スーパースポーツ
――「ラウンドアップ5」(辰巳電子工業)論



 一般に自動車ゲームと言うのは、他の車にぶつかったら爆発、スピン、その他もろもろ……まあ、およそいいことなどありゃしない、というものですが、そんな中で むしろ敵の車に積極的にぶつかっていくことを推奨するゲームがありました。

 言うまでもなく「タイトーチェイスH.Q.」です。私も大好きなゲームです。

 当時(小学校低中学年)「ぶつかると爆発する」というのが恐くて、およそ他のレースゲームをプレイしたことがなかったのですが、このゲームだけは別でした。 ある程度ミスしてもちょっとスピンするくらいで、それほど上手ではないにしても、一応犯人の車に追いつくところまでは行けましたし、そこからガンガンガンガン ぶつけていって、調子がよければクリアも出来たと思います。続編もかなりプレイしました。最近はなかなか見る機会がないのですが……。

 で、そんなある日、よく似たシステムのゲームを見かけたことがありました。今はもう面影さえ見当たらない、中心地から少し離れたところにあるゲーセンでした。

 違うのは自車がポルシェ928ではなくて、どうもフェラーリF40っぽいということ。フィクションにせよそうでないにせよ、黄色いF40というのはこのゲームで しか見たことがありません。

 そして、幅広な筐体はシートをぐるりと、両手を広げるようにモニタで囲んでいました。

 
 世界初の3画面アーケードゲーム「TX−1」の流れを汲むドライブゲーム「ラウンドアップ5」であるということを知ったのは、別なゲームのことでメーカー様の HPを見て、その時に「軌跡」みたいなものを見ている時、偶然その筐体の写真を見た時でした……。



 恐れながら申し上げますと、私は「辰巳電子工業」という会社の名前をよく知りませんでした。

 まったく聞いたことがない、わけではないのですが、それを聞く機会と言うのがたいてい「ダライアス」とか「リッジレーサー」とか……他社の3画面ゲームの話題が 出た時、「世界初の3画面ゲームは辰巳電子工業のTX−1だが……」といったくだりで目にするくらい。当時のゲーム会社が後にシイタケを栽培したり自転車を作ったり 韓国や香港の会社になって全然違うゲームばかり出すようになったりといったことを何度も目にしていたために、公式ホームページなんてまだあるのかねぇ? などと 思っていたら、現役バリバリの会社ではありませんか。

 大変失礼いたしました。

 現在の主力商品は主に写真シール機であり、実際に利用したことはないにせよ、何やら筐体を見たことはあります。私が写真シール機を利用することは、残念ながら可能性 としては限りなく低いのですが、過去の歴史を捨てずにきちんと残してくれているのは嬉しい限りです。何よりそのおかげで、私の記憶の中にあった謎のゲームが何であるのか、 きちんと理解することが出来たのですから。


 やたら長い前置きとなりましたが、ゲーム内容を説明します。

 先に申し上げたように自分の車はかのイタリアン・スーパースポーツであるフェラーリF40です。ロードカーとしてはあまりにも過剰品質というかアブナイ車で、当時の 現役F1ドライバーであるゲルハルト・ベルガーをして「雨の日はガレージから出すな」と言わしめた、ある意味ポルシェの対極に位置する車であり、そういうこともあって 私はそれほど好きではないのですが、まあとにかく世界最速クラスのロードカーであることは動かしがたい事実と言えましょう。

 で、これを黄色くペイントしてパトランプをつけたものを駆ってアメリカ中に散らばる凶悪犯を次々と捕まえていくのが目標です。分岐があって、任意で使えるターボ があって、まあ要するに「タイトーチェイスH.Q.」です。

 なおこのゲームのF40は遠心力とか何とかと言ったものは無縁で、300キロ近いスピードで急ハンドルを切っても絶対にスピンしません。横向きにズキャキャキャと 派手にドリフトします。なので、安心です(当たり前だ)。

 
 ひたすら爆走すると、やがて逃走中の犯人の車が見えてくるかと思いますが、なぜか護衛のバイクが山ほどいます。ここが「チェイスH.Q.」との決定的な違いで あり、「ラウンドアップ5」が「ラウンドアップ5」たるポイントとなるわけですが、犯人を捕まえる前にまず護衛のバイクを全滅させなければならないのですね。

 基本的には体当たりでバイクを弾き飛ばしていくようになりますが、向こうもこちらにガンガン攻撃してくるため、見る見るうちに自車がベコベコに壊れていきます。 高いんだぞこの車ぁー! という刑事の悲鳴にも似た叫びが聞こえてきそうです。

 まあ、ともかくボロボロにされながらもそのバイク軍団を全滅させると、いよいよ犯人の車に体当たりと言うわけですが、こちらは10回も20回もぶつからなくても、 3回ほどぶつかれば白旗を上げます。そうすると助手席の刑事が天才バカボンの本官さんの如く拳銃を空中に向けて発射、応援に駆けつけたこれまたF40(こちらは スタンダードな赤色)ともども凶悪犯を逮捕、写真の前に檻がガシャーンと落ちるアニメが入ってラウンドクリアー、といった次第です。
 
 こんな感じで全5ステージを(「ラウンドアップ5」ですから)クリアします。冷静に考えてみると、アメリカ大陸をぐるりと一周するわけで、各州の警察は一体 何をしているのでしょうか。主人公は誰なんだ。FBIなのか。

 難易度は結構、高いです。何せ普通に走っているつもりでも犯人に追いつけないままゲームオーバーになることもしばしばあり、ひょっとするとこのゲームにおけるターボは 「ミスした時にそれを取り戻すための一発逆転アイテム」ではなく「全部使い切って当然のもの」なのかもしれません。ちょうど「1943」のメガクラッシュみたいな。

 
 当時は「ふーん、タイトーチェイスHQみたいだな」くらいに思っていたのですが、ポルシェが300キロでぶつかろうと何十回他の車にぶつかろうと、乗員の悲鳴こそあれ 元気に走り続けるのに対し、こちらは目に見えてボロボロになっていくので、「ポルシェ=鋼鉄だから超硬い」「フェラーリ=アルミだから簡単にへこむ」(ジュースの缶のイメージ) と、ワケのわからない印象をもち、困ったことにそれなりに車が好きになった今でもそのイメージが完全に払拭されていないんですね。

 そのせいなのか、いつのまにかその筐体は消えてしまい、それ以来20年くらい見ていないような気がします。いや、そもそも一回でも二回でもプレイできたのが、すごく ラッキーだったのかもしれません。確か同じ店舗には「ナイトストライカー」とかもあったし。


 というわけで、前回の「ストームブレード」に続き、ややマイナーな雰囲気のあるゲームについての文章でした。いかにもここのホームページらしくていいのですが、 問題は誰がこんなところを見るのかと言うことですね。まあ、いつものことですが。

 「ダライアス」なら秋葉原のレトロゲームコーナー等々で現役の姿を見ることもあるでしょうが、このゲームはまず稼動していないでしょうね。場所も取るし、電気代も かかりそうだし……。とはいえ、もしも2007年現在、稼動しているゲーセンがあればご一報ください。




 


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