私と大型筐体――「体感ゲーム」の鮮やかな記憶
第一回 セガ編




 体感ゲーム――。
 いい響きです。バイク、自動車、戦闘機、ヘリコプター……この世にありとあらゆる乗り物はありますが、そのうち私たち一般人が実際に乗れるのはせいぜいバイクと自動車でしょう。しかもそのふたつにしても、16歳ないしは18歳になって、しちめんどくさい教習所で教官に再三再四怒られて、試験に落ちるごとに金と時間が消えていき、やっとのことで免許を取らなければ乗れませんし、乗ったとしても何かと面倒が付きまといます。
 しかしこの体感ゲームと言うやつは、100円(〜500円)を払うことによって、その機械さえあれば時速300キロで爆走するバイクを運転したりF1を運転したりジェット戦闘機やら軍用ヘリコプターやら戦車やら、何でも乗ることができるわけで、まあ当時の私のように、免許どころかクラッチペダルの使い方がいまいちよくわからなかった小学生でなくても、夢のゲームだったことでしょう。
 このレヴューでは、前半部分ではゲームの内容云々よりも、筐体それ自体にインパクトがあったものを取り上げていきたいと思います。インパクトがありすぎてゲームにならなかったと言う事情もありますが……。そして後半では、それなりに「遊べる」お年頃になってから遊んだゲームのことをいろいろ書きたいと思います。
 なお順番はゲームの発売年ごと……ではなくて「私が思いついた順」というきわめて迷惑な仕様となっておりますので、ご了承ください。




 1.風を感じる――「ハングオン」について


 どちらかというと私は、デパートのゲームコーナーでやった「スーパーハングオン」が早いコンタクトでした。金の背景に黒文字で「技 最高速度になったころに赤いボタンを押すと、さらに加速できるぞ!」と書いていたことを、未だに覚えております。もっとも、当時の私の技量では、最高速度に達する以前に路傍の木々にぶつかって派手に吹っ飛んだりしているうちに、あっさりゲームオーバーとなっておりましたが……。
 で、それからしばらくして、今度は遊園地のゲームコーナーで、ついにハングオンと出会いました。
 でかい! あと、 赤い! 
 私は心ときめき早速筐体にまたがり、100円を投じてスタートしました。
 シグナルが青になり、フル加速! 孤独感を煽るようなちょっと悲壮な、美しいFM音源の音楽を聴きながら、スピードがドンドン上がっていきます。まるで本当のライダーになったように身を低くして走り――というか体が小さいので、画面を見るために自然とそういう姿勢になったに過ぎないのですが――まるでそこに風を感じるような気持ちで最初のカーブに挑みました。それ、体重移動! 今こそまさにハングオ……

 ……倒れないっ!
 重すぎる(あるいは体重が軽すぎる)!
 

 程なくしてライダーは路傍の岩だかなんだかに激突、激しく吹っ飛ばされたあと地面にたたきつけられ――そしてバイクは大破炎上してしまったのでした。
 最終的に私は筐体横のステップに降り立ち、押したり引いたりしてどうにか倒したのですが、それはたぶん鈴木裕さんも思いつかないような異端の遊び方だったことでしょう。というか、それってもうバイク乗ってないじゃん。
 そのあたりを踏まえてくれたのでしょうか。続編の「スーパーハングオン」では、小学校中学年の私でも容易にハングオンができるくらい筐体がぐいぐい倒れてくれるようになりました。こちらは初代ほどのインパクトはなかったと聞きますが、正直なところ「こっちの方が好き」と言ってしまってもいいくらいです。まあ、「すりこみ現象」みたいなもんでしょうかね……。


2.シートベルト所望――「サンダーブレード」


 当初このコラムは、「サンダーブレード」のことを書くつもりで立ち上げましたが、考えてみればこのゲーム、ナムコの「メタルホーク」に食われてしまって、パッとしなかったと言う話ですよね。いや、パッとしないと言うよりは積極的にダメダメな評価をされていた気も……。
 
 実際、私は記憶の中では、一度しかやった覚えがありません。しかも、敵弾とともにビルが迫ってきて、なんとも自由に動ける範囲が狭いと言うか……。はっきり言って3分と持たなかったような気がします。だからこのゲームの妙、趣と言うか面白みに気づいたのは、家庭用に移植されたものを遊んだ時でした。
 何やらまた不穏なことを、とお思いの方もいるかと思いますが、そのことはまたの機会に譲るとして……この筐体は、何やら自力で稼動させる類のものだったと言いますね。私はメカトロニクスなことについてはトンと詳しくないのでアレですが、とにかくすごく怖かったからです。
 何が怖いって、座るところが狭いしシートベルトもないような状態でしたから、自力で踏ん張らないと横に振った時、振り落とされそうになったんですよね。その頃まだ体が小さいからということもあったのでしょうが――

 「敵が来たッ! 避けろッ!」
  グイッ(操縦桿を右に倒す)
 「おおおっ、落ちるぅ〜!」

 と言って操縦桿にしがみついたりしていました。もうゲームどころじゃないっすよ先輩! という感じです。ビデオゲームをしに来たのであって、絶叫マシンに乗りに来たのではないのに、と今なお覚えております。そんなこんなだから、もしかしたら1分くらいでダメだったかも……。
 今やこの国に果たして何台現存するのか……いやそもそも、現存するのかどうか怪しいものですが、あれだけ稼動するのですから、シートベルトをつけてほしかった! と思うのです。
 「アフターバーナー」でもそうですし、「G-LOC」でもそうですが、やはりあれは伊達じゃないですよ。とりあえずゲームに集中させてくれたら、ちゃんとしたレヴューもかけたのになぁ、などと今しみじみと思います。

3.究極互換体感タイプ 「R-360」と「G-LOC」

 で、その体感ゲームのひとつの究極が、この「R-360」といったことになるわけですね。この機体には波動砲もフォースもついていませんが、後に波動砲が装備された、大気圏外での運用を視野に入れた筐体が開発されることとなります(※)。
 「スペースハリアー」「アフターバーナー」では前後左右にぐいぐいとプレイヤーを揺さぶりましたが、ついに360度回転と来ましたぜ。ゲームの中で横にローリングしたら、プレイヤーもローリング! 縦に宙返りしたら、プレイヤーもグルグルに回される! たぶんこんなすごい筐体は後にも先にもないんじゃないだろうかと言いたくなるくらいどえらいモノでありました。
 その筐体のゲームは「G-LOC」というもので、実は「アフターバーナー」よりもずっとこっちの方が好きです。こちらは同じ戦闘機のゲームなのですが、コクピット視点と言うことと、ステージごとにミッションが与えられると言うところが違います。冒頭に司令官から、

 "Hir down, 8 enemies"(音声)
 70秒以内に8機撃墜せよ(字幕)

 とかと言われて、何とかかんとかするというわけで……ステージによっては船を撃沈させろとか、そういうミッションもあったような気がします。自分としてはよりそれらしい感じがして、「アフターバーナー」よりもこちらの方が好きだったりします。
 また筐体の話に戻ります。
 見たことある方ならご存知の通り、この筐体はなんだか球体をしていました。でもって外側にはモニターと緊急警告用の赤ランプがあります。まあこれが点灯するところは一度も見たことがありませんが……。
 当時、県内(岩手県)唯一の設置場所に偶然赴いた私は、話題騒然、人だかりをかきわけて、係員の人に「やります」と告げました。正直なところ、よくそんな衆人環視の中やることができたなと思いますが、当時はほら、「ここでやらなきゃ多分二度とできない」という一心でしたからね。実際、その後間もなく消えてしまいましたしね……。
 1回500円というのも、普通に考えれば相当な金額ではあったと思いますが、ともかくそのくらいの金額を支払って私はコクピットに乗り込みました。そこでは上から、ジェットコースターに乗る時につけるような、肩と腰の部分をがっちりガードするアレをつけて、やっとのことで腕を伸ばして操縦桿を握ります。
 で、係員の人のありがた迷惑と言うか恥ずかしいコクピット内実況中継を経て、私はいよいよ大空へと飛び立ちました。目の前のディスプレイに、早速機影を確認! よしちょっと機体をずらして、ロックオンさせるぜっ!

 ぐるん

 そりゃそうですよね。普通の筐体だったらせいぜい横に傾く程度でしょうが、この筐体は360度全方位にくるくる回るようにできてるんですから、私は体ごと横倒しにされてしまい、面食らってしまいました。面食らったと言うか……一言で言えば完全パニック状態でありました。
 「とりあえず、元通りになろう」
 そう思ったものの、どっちに傾けたらいいんだかわからず、たぶん闇雲に操縦桿を倒したんだと思います。そうするとぐるりぐるりと縦横斜めにぐるぐる回転し、さかさまになったまま戻らなくなったり、正面からでんぐり返りをするようにぐるりと一回転したりと、まさに「天地がひっくり返るような」体験をしました。もうゲームどころじゃないですよ本当。
 そういうわけで、まあ驚天動地の70秒が終わりました。やはり横方向への回転ならともかく、縦方向への回転は尋常じゃなく怖いです。足が空に向く感覚と言うのはちょっと気持ち悪いぐらいでした。もしもう一度、R-360に乗る機会があったとしたら……とりあえず乗って、「やはり怖かった」というレビューを書いて、それっきりじゃないかなと思います(笑)。
 そういえば私の世代の「コロコロコミック」で、かつて「がんばれ! キッカーズ」というサッカー漫画を描いておられたながいのりあき先生のゲーム漫画「電脳ボーイ」第一回は、このR-360で主人公(体力でゲーム勝負する少年)と最初のライバル(金持ちでゲームがうまい)が対決していました。 「ゲームセンターあらし」 「ファミコンロッキー」の流れを汲む漫画だけに語ることも多いのですが、そのことについてはまた改めることとしましょう。


 ……といったわけで、今回ではゲームではなくてもっと物理的な「筐体」についていろいろ述べてみました。本当は『サンダーブレード』のレビューを書こうと思ったのですが、あのゲームで書くことが、ここに書いたことくらいしかなかったので、いい機会だとばかりに筐体にまつわる記憶を少し書き留めてみた次第です。
 私は基本的に「遊ぶ側」以外の何者でもないのですが、やはりギミックが多ければ故障も多いと言うことなのでしょう。それに、筐体の値段も張るだろうし……そう考えると、やはり今のように通信対戦の筐体が主流になるのは必然と言うことなのでしょうね。
 とはいえこのR-360以降も、座席の両脇でエアバッグが「プシュー、プシュー」とうなる『バーチャレーシング』や、やたらでかい本物の車みたいな形をした『デイトナUSA』あるいは『スカッドレース』のすごい方の筐体、それに最近のやつでも「F-ZERO」の筐体なんかはかなりよくできていましたね。ゲームの方は、「速すぎてダメ」でしたが。
 
 ただ、そういったいろいろな「大人の事情」を知らない、「遊ぶ側」オンリーの私としては、そういった全身で体験できるものすごい筐体を引っさげたゲームが出てほしいと思うのです。近頃は家庭用のゲーム機でも完全移植が当たり前だし、エミュレータなどと言うものを使えば、本当にそのままアーケードゲームがパソコンでできると聞きます。
 だからこそ、「あれをやるためには、あのゲーセンに行かなきゃならないんだ!」と言って、朝8時に自転車に乗って4時間走り続けて数十キロ離れたところにあるゲーセンに行き、目的のゲームを含めて3プレイほどしてからまた4時間以上(行きの疲れがあるので相当時間がかかる)かけて帰途に着く……それぐらいさせる「体感ゲーム」が出てほしいと強く願うのです。ちなみにこれは99パーセント実話です。

 ※ 2001年だかに発売されたドリームキャスト用ゲームソフト「セガガガ」に出てくる大気圏外用大型筐体試作第一号「R-720」のこと。2025年ごろロールアウト(予定)。人格形成の時期にメガドライブおよびセガサターンの影響を強く受けた犬神は、じつに20回以上クリアし、真のエンディングへいたる過程で、うれしさのあまり熱いものをとめどなく流してしまいました。あんなに感動したことは後にも先にもその一度だけです。……おかしいかな? いや、おかしいですよね。
 


 


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