私と革命――「ゲバラ」論


 誤解を招かないように申しておきますが、これはファミコンゲームのレビューです。社会主義制度がどうとかいうことを読みたい方は、少々ご遠慮願いたいと思います。

 さて、話に入る前に「そもそもゲバラって何よ」 「え? 焼肉のたれ?」とかなんとかという方も多々いるかと思います。私はそうでした。日本人はたぶん、語感から、焼肉のたれっぽいイメージを想像してしまうんではないでしょうか。なのでほんの少しだけ、史実のことを書きます。



 まずゲバラというのは、チェ・ゲバラという人で、アルゼンチン生まれのお医者さんです。いつの時代かというと、今から50年位前……1950年代から60年代あたりですね。私は生まれていなかったのでよくわかりませんが、そのころの中南米の国々というのは独裁者が圧政を敷いて、国民は苦しんでいたといいます。

 そこでゲバラはお医者さんとして彼らを救おうと思ってグアテマラに渡ったのですが、そこで軍隊に追われてメキシコに逃れました。そして、そこで出会ったのがかの有名なフィデル・カストロ氏であります。ゲバラという人は知らなくてもカストロという人は知っている、という方は結構多いのではないでしょうか。

 彼が語るには、当時キューバはフルヘンシオ・バティスタという大統領が独裁体制を敷いていて、政敵は次々と粛正し、その上、アメリカ資本家と結びつき、私腹を肥やしたために、キューバ経済をアメリカに掌握される結果となったのだそうです。

そこで憂国の士(なのかな?)カストロは”キューバ人の為のキューバ”を掲げ、バティスタ政権打倒に立ち上がったのだのですが、政府軍の弾圧に遭い、カストロもまたメキシコへと逃れ、そこで緻密なクーデター計画をねっていたのでした。

 同志と出会ったふたりは意気投合し、ゲバラはキューバ革命への参加を表明しました。彼は数ヶ月の訓練を行った後、卓越した指揮能力によって、政府軍との戦闘を勝利に導く。それによってバティスタ政権は倒れ、カストロとゲバラとは英雄と呼ばれるようになりました。これがいわゆる「キューバ革命」というやつです。

 その後、ゲバラはしばらくキューバのお役人として、平和な日々を過ごしておりましたが、
 「世界の他の国が私の力添えを望んでいる」
 という手紙をカストロに残して、彼はキューバを去り、ボリビアでの軍政に反対する、ゲリラ軍を指揮していたのですが、そのさなか戦闘で負傷し、捕らえられ、ついには射殺されてしまいました。享年33歳でありました。しかし彼の死は世界中の革命家や社会主義思想者などに大きな影響を与えたといわれています。ちなみに一方のカストロはキューバの偉い人として、2004年現在も中国の偉い人と会って「カラーテレビがもう100万台くらいほしいや」とかと、それなりに元気にやっているようです。



 で、この「ゲバラ」というゲームなんですが、ファミコン版は1988年に出ております。その前にアーケード版が、87年に出ておりまして、内容は……うちのサイトでも以前紹介しましたが、青い軍服を着た兵士がなくならない銃弾をばらまきながら、ひとりで一国の軍隊と戦う縦スクロールアクションゲームとよく似ています。後に捕らえられて、ワイヤーを使いこなす大尉に助けてもらう人ですね。

 ただ、パク……もとい、模倣で終わらないのがこのSNKという会社でありまして(言い換えた意味がないか?)、これの前に出た「怒」ではド派手なパワーアップ、乗り物に乗って大逆襲、そして「俺が生き残るためなら相棒さえも倒す!」(キャッチコピーより)ことのできるリアルさで、独特の存在感を放っておりました(たぶん)。

 このゲームにしてもそうでありました。アチラのスーパーなんたらという異名を持つ兵士と違って、まずこちらは手榴弾も無限です。そういえば先に紹介したタイトーの「陸海空」というゲームのサージ軍曹も同じような設定でしたね。

 またアイテムをとると、銃が劇的にパワーアップし、爆裂弾とか炸裂弾とか、とにもかくにもサクサク進めるようになります。ただし注意してほしいのは、このゲームでは戦車に乗って下手に弾を打ちまくると、自分の砲弾で橋を破壊してしまうことがあります。そうなると戦車で先に進めなくなるので、気をつけてください。

 そしてここが、ほとんど殺戮機械といってもかまわないなんとかジョー氏と憂国の革命闘士チェ・ゲバラとの違いなんですが(?)、時々、木に縛り付けられた人がいます。彼らはおそらくバティスタ政権に反発する一般市民等でありまして、触ることで解放することができます。
 
 しかしながら気をつけていただきたいことは、一般市民とはいえ幽霊ではありませんでして、銃弾が当たれば死亡します。そうなると革命ポイントが500点マイナスになりますので、気をつけましょう。ただ、激しい敵の銃弾に見舞われながらそういった人々を救出するのが困難極まりないことは火を見るより明らかでありまして、革命の名の下に、敵の兵士ともども犠牲となることは避けられないというのが非情な現実のようです。



 そういうわけで、革命の二文字を掲げて、敵も味方もなく倒していき、最終的に仇敵バティスタのいる宮殿へと乗り込みます。道中はさまざまなアクシデントというか、トラップが満載でして、さすが楽なものではありませんが、しかしながらSNKはキューバの英雄ゲバラ(AC版では、2Pキャラはなんとカストロ氏!)にその場復活&無限コンティニューという、まあ実質無敵状態で進めるシステムを与えてくれました。

 要はもう、やり続ける時間と根性さえあればどなたでも革命を成功させることができるんですね。そうなればもう弾をかわす気さえなくなってしまいます。国を憂い、理想を追い求めて戦う熱き漢たちの戦いの記録が、惰性で進む大量殺戮ゲームになってしまう危険がありますが、ステージクリアごとに明朝体で革命の進行状況とこれからの予定などを語ってくださるので、とりあえずギリギリのところでプレイヤーも革命戦士であり続けることができるわけですね。

 
 さて、今回はレビューの半分が歴史の授業で終わってしまいましたが、そういう感じのゲームです。なにやら中古価格はそれなりにいい値段のようでして、はたして数千円かける価値があるのかどうかというと……いや、まあいいや。特にカストロ氏やゲバラ氏が好きでなくても(また社会主義者やアメリカ大嫌い主義でなくても)ゲームは楽しめます。そして、なんだか熱くなれます。

 「戦場の狼」がサクッと楽しめる軽めのアクションゲームだとするならば、「ゲバラ」は戦いに革命という理由をもたらしたいかにも当時のSNKらしい、重厚な「漢ゲー」といった趣があり、決してどちらが秀でているというわけではないという風に考えております……といった感じで、今日のところはおひらきにしようかなと思います。

 


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