私とリアル・クール・レーシングライフ
――『R:racing revolution』論




 これは最近知ったのですが、モータースポーツに女性が参戦した例というのは、私が知っていたそれよりもず〜っと古く、1964年の日本グランプリにおいても トライアンフTR4という車で参戦したという話があります。いや本気でさかのぼればもっともっと古いのかもしれませんがね。

 その日本グランプリというのは、ポルシェ904という純レーシングカーを1瞬ではあるものの普通の量産車が抜き去り、前を走ったという『スカイライン伝説』 が出たレースだったのですが、この女性ドライバーがその伝説の影の立役者、というか何というか。当事者である生沢徹さんらの話によれば、その女性ドライバーの 運転があまりにも危なっかしくて、上手に抜けなくてどうしようかな〜と思っているうちにそうなってしまった、ということだそうです。

 私にとってはその『スカイライン伝説』の真相はどうでもよくて、その当時のレースに女性レーサーが参加していたのか! ということに驚いてしまいました。

 もちろんそれは「女性は参加すべきではない」ということでは決してありません。むしろ逆に、最近だからようやく参加できるようになったのかな、と思っていたから です(アメリカのインディという自動車レースのシリーズでは、長らく女人禁制であったといいますし)。……まあ、こんな感じで危なっかしい運転をするのなら、 参加すべきではないというのが本来かもしれませんが……。
 
 
 さて! 前置きが妙に長くなってしまいましたが(笑)、今回取り上げたいと思ったのは2003年にナムコから発売された『R:racing evolution』です。

 ナムコのレースゲームといえば誰でも『こち亀』の絵崎教授のようにすさまじいドリフトで「うおおおお!」と絶叫することができる傑作『リッジレーサー』ですが、 本作ではそのようなトンデモナイ挙動はなく、かなりのリアル志向。何せレースゲーム20周年記念モデルですからね(元祖は『ポールポジション』)。もう1本のナムコの レースゲームの柱である『motoGP』とあわせた結果、こんな風になりました、という感じです。

 ところが世の中の反響はこれがまた惨憺たるモノで、私も新品980円のワゴンセールの中にあったのを数ヵ月くらい放置したあげく、「まあ980円だしね」という気持ちで 買ってしまったという事実は、あえて否定しません。

 しかしながら、同時に、

 「なんかみんな、あんまり気に入ってないみたいだけれど、どうしてそこまで嫌うのかね」

 ということを買う前からうすうす思っていて、どっちなのか確かめてみなきゃならんなという気持ちもあって、レジに持っていったのも事実です。

 そして私は1週間くらいず〜っとかかりきりになりました。またしてもいっぺんに好きになってしまったのでした。


 1.リアルさと面白さのあいだ

 なんだろう、皆様がダメだダメだと言っているのは、「変にリアルな感じになったから」ってところなのかな。確かにカクンとハンドルを切ると、摩擦抵抗とか遠心力 とかといった物理的な要素を一切ぶっ飛ばした挙動を見せるのが『リッジレーサー』の魅力ではありますが、先にも申し上げたようにこれはただの『リッジレーサー』の 続編ではなくて『motoGP』と融合したものだから、私たちの地球と同じ物理法則があるんです。

 まあ、それというのは私がさんざん『GT3』をやりこんで、リアルなレースゲームに結構慣れ親しんでいたから、ということもあるかもしれません(逆にリッジ系の 最新作『7』なんかは、あのニトロというやつを上手に使いこなせないし、そもそもグルグル回る景色に酔ってしまいました……苦笑)。ただ『GT3』 みたいにリアル、リアルで味気ないようなものではなく、そこはナムコ様ならではの色気、あ、いや……ゲーム性が盛り込まれております。

 それというのが『プレッシャーシステム』と『無線システム』です。

 前者はたとえばレース中にライバルの車の後ろにピタリとくっつくと、「しまった! すぐ後ろにつかれちまったぜ!」などとそのライバルが動揺し始めます。そして その動揺がピークに達すると、カーブで減速しそこねたりなんだりといったミスをしてしまい、その隙に悠々と抜き去ることができる……というものです。

 ある意味これが本作のキモではないでしょうか。もちろんアッサリと抜けるのならそれに越したことはないと思いますが、コースが難しかったりライバルが速すぎたり して、なかなか抜けない時でも、このシステムを使えば割とイージーに、しかもかっこよく? 抜くことができるのです。

 もうひとつの『無線システム』というのは、まあどちらかというと雰囲気作りのためという気もしますが、レース中何かと監督(ラリーの時は隣のコ・ドライバー)から 言葉が飛んできます。時に叱責で あったり、激励であったり、歓声であったり……。ただ、カーブを曲がった時なんかは「上手だ」とか「もっと速く曲がれるぞ」とかとアドバイスもくれるので、毎回 褒められるようにプレイすればきっと上達することでしょう。

 あとは、なぜか他のチームの声も聞こえます。余裕っぽい雰囲気を出していたり、反対にプレッシャーを感じていたり、はたまたこちらを挑発してくるやつなんかも いたりと、様々です。

 実況入りのレースゲームなんていうのは時々ありますが、こうやって色々な人たちがワイワイしゃべるレースゲームというのはこの『R』ぐらいしか知りません。そして 私はこのシステムが大のお気に入りです。……何となれば、やはり(ライバルたちも含めて)「みんなでレースをやっている」――もっといえば「そこに人がいる」という ことを感じられるからです。

 あとは、面白いと思ったのは「ABS」。アンチロックではなく『オートブレーキシステム』。セガの『F355チャレンジ』でも実装されましたが、 カーブで自動的に安全な速度まで減速してくれるので、プレイヤーはあまり難しいことを考えなくても気持ちよくレースができるのです。もちろんそれは一番速い走り方 ではないので、慣れてきたらオフにして自分のタイミングでギリギリまでブレーキを遅らせて……ということになるでしょうが、手軽に後述するストーリィの世界に 入り込めるのはさすが人情を知るナムコといったところ。血も涙もないSCEなどとは違います。



 リアルなんだけど、温かみもある。セガとはまた違った意味で、味のあるゲームなのです。ちなみにかつては大の『グランツーリスモ』ファンでしたが、今の私はもう 決別しました。「ただリアルな車のゲーム』はもう好きではないのです。


 2.感情のある世界


 本作にはパッとプレイできる『アーケードモード』のほかに、『レーシングライフモード』があります。まあ要するにストーリーモードですね。

 元々は救急車のドライバーで、その都合上というわけでもないのでしょうが非常に運転がうまい女の子・速水レナ(ナムコはこの名前大好きですね)。たまたま乗せた 急患がレーシングドライバーで、その代わりにと強引に? 参加させられたレースでいきなり優勝してしまい、そのままレーサーとしてのキャリアを始めるというストーリーです。

 そのレナを囲む人々というのは、彼女をスカウトしたチームの監督『ステファン』、ラリーのチームを率いるエンジニア『エディ』、そして実力とキツい性格でレースの 世界を生き抜いてきたスペイン人の才媛『ジーナ』……といった面々で、レースの前後には彼らによるドラマが展開されます。『鉄拳』やら『ソウルキャリバー』やらで見ることのできる ビューティフォーなムービーとレース中にも飛び交う無線の声で、途切れることなくストーリィを盛り上げてくれるのはすばらしい演出であると思います。

 最初は特に疑うことなく、レースに出て優勝して……とやってはいるものの、途中から「おや?」と思うようなことも出てきます。それというのも主人公がスカウトされた チーム、ちょっと怪しいところなのですね。ジーナの、レナに対する態度が妙にツンツンしてるのもそのせいのようです。しかしながら、それでも勝ち続けていると次第に 彼女の態度も変わってきて、さらにレナを取り巻く環境も……。

 まあ、物語が面白いと思うのかどうかは、う〜ん……これは一概には言えませんが、私は最初から最後まで、結構楽しめました。一応シャワーシーンとかもあるにはあるのですが、 巷間ではやっているギャルゲーのように「ほら、どうだ、見ろ! いいだろいいだろエッヘッヘッ」みたいな空気ではなく、サラッと流している感じです。カネにまつわる しがらみとかは現実のレースの世界でもありそうですが、それを振り払うべく奮闘するのがファンタジー。素直に楽しいのです。


  3.やりこみ要素

 
 本作には、実際にある車がたくさん出てきます。

 それはレーシングカーであったり、市販のスポーツカーであったり、はたまた直線を400メートル走るためだけにチューンされたハイパワーマシンであったり、反対に 昔の控えめなスポーツカーだったり。確かに30台そこそこというのは少ないかもしれませんが、十分に楽しめます。

 犬神が『面白いなあ』と思ったのは『Fiat500』と『デロリアン』。前者はイタリアを代表する小型車なんですが、レースによってはこれを改造して、現役のレーシングカーと 互角以上に渡り合えるようにした代物を走らせることができます。って『ハービー』かよ! と突っ込んでしまいそうになりました。あるいは、アレだ、ルパンの車かも(笑)。

 そして『デロリアン』というのは、言うまでもなく『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てきて世界的に有名になったあの『デロリアン』です。あれは架空の車ではなくて、 当時実際に市販された車なのです。……まあ、人気/知名度の割にスポーツカーとしてはアレなところがあるんですが、これはゲーム史上初めての快挙じゃないかな。……なお、 次元転移装置は多分ありません。

 あとは、ポイントをためてその車を自分好みにチューンできるのも魅力。かといって何でもかんでも1000馬力オーバーの仕様にすることができるわけではなく、割とシンプルな ものですが、そんなもんでいいのです。リアルで細かく設定できればいいってものじゃないんですから。

 ポイントを稼ぐためには、ストーリィとは別に用意されたいくつもの単発レースを勝ち抜くことになります。それぞれ参加できる車種とかが指定されているので、自分が持っている 車で参加できる(と同時に勝てる)ものを選び、ひとつひとつクリアしていきます。また中には、直接ライバルと戦って、勝ったら相手の車を分捕ってしまえると言う魅力的な ものもあります。ライバル仕様の車は、本来自分で乗るものよりも少し性能がよく設定されているのです。

 ちなみに、攻略サイトによれば、もっとも手っ取り早くポイントを稼げるのは、いわゆる『ゼロヨン』。一番難しいカテゴリに一番速い車(ストーリーモードの終盤で手に入る)で挑めば、 わずか数秒で何万というポイントが手に入るので、あっという間です。


 そんな感じで、リアルな世界とリアルな人間がいながら、ほんの少しだけゲームらしく楽しい要素を詰め込んだ本作ですが、『リッジレーサー』みたいなのを期待していた 人たちによって不当にダメの評価を与えられてしまったというのが、私の最終的な評価です。

 リアルなレースゲームをやりたいけれど、いつまで経っても『5』が出ないアレが嫌いな人、ナムコっぽい美麗な女の子を見たい人など……いや、 プレイする前からこのゲームがダメだと思っているすべての人は、いますぐゲオなり何なりに行って本作を買い、プレイしてみてください。

 


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